建築物などの解体工事を実施する際や、解体工事に伴って発生する廃棄物を処理する際には、さまざまな法律や条例に基づく規制があります。この記事では、適正な解体工事を行うために必要な届出や各種規制の概要、特に注意すべきポイントをまとめます。
解体工事におけるチェック項目
建築物などの解体工事や、それに伴う廃棄物処理には、さまざまな法律や条例の規制があります。必要な届出や各種規制の概要、特に注意すべきポイントを以下にまとめます。
1.石綿(アスベスト)飛散防止
特定粉じん排出等作業の実施の届出
建築物・工作物の解体等の工事の事前調査において、石綿(アスベスト)が「使用あり」又は「みなし」の場合は、工事の発注者又は自主施工者は作業開始の14日前までに届出が必要です。
法令・条例に基づく手続き
□ 建築物・工作物の解体、改造、補修工事を行う場合は、事前調査が必要です。
□ 事前調査の結果は、石綿の使用の有無に関わらず全ての工事期間中に掲示が必要です。
□ 一定規模以上の解体等工事(※)の事前調査の結果は、石綿の使用の有無に関わらず報告が必要です。
※一定規模以上の解体等工事とは?
・建築物を解体する作業を伴う工事であって、作業の対象となる合計床面積が80㎡以上のもの
・建築物を改造、補修する作業を伴う工事であって、作業の請負代金の合計が100万円以上のもの
・(特定建築材料が使用されているおそれが大きいものとして環境大臣が定める)工作物を解体、改造、補修する作業を伴う工事であって、作業の請負代金の合計が100万円以上のもの
事前調査結果
石綿(アスベスト)の使用なし | 石綿(アスベスト)の使用あり又はみなし |
通常の工事を行えます | 以下の項目に注意が必要です |
- 「吹付け石綿」「石綿を含有する断熱材・保温材・耐火被覆材」の場合は、発注者等は全て作業開始の14日前までに大気汚染防止法の「特定粉じん排出等作業の実施」の届出が必要です。
- 上記作業で石綿の使用面積が50㎡以上の場合、発注者等は大阪府生活環境の保全等に関する条例に基づき、作業開始の14日前までに石綿濃度の測定計画の届出が必要です。
- 「石綿含有仕上塗材」「石綿含有成形板等」の場合は、使用面積がそれぞれ1,000㎡以上の場合、発注者等は作業開始の14日前までに大阪府生活環境の保全等に関する条例の「特定粉じん排出等作業の実施」の届出が必要です。
2.産業廃棄物のリサイクル・適正処理
処理責任
建設工事に伴い生ずる産業廃棄物の処理責任は元請業者にあります。元請業者が責任を果たしていなければ、罰則が適用される場合があります。
保管基準と処理委託基準
元請業者は、産業廃棄物が運搬されるまでの間、保管基準に従って適正に保管しなければなりません。解体工事現場の中で保管するときも例外ではありません。産業廃棄物保管基準を守りましょう。なお、産業廃棄物の処理を他人に委託する場合は、必ず産業廃棄物処理業の許可業者に依頼しなければなりません。また、適正な方法で委託することが求められます。
マニフェスト(産業廃棄物管理票)の交付
元請業者は、産業廃棄物の処理を他人に委託する場合は、産業廃棄物の引渡しと同時に、法に定める事項を記載したマニフェストを産業廃棄物の種類ごと、運搬先ごとに交付しなければなりません。
特定建設資材廃棄物
建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)では、一定規模以上の解体工事又は新築工事等(対象建設工事)を施工するときは、特定建設資材廃棄物(コンクリート塊、アスファルト・コンクリート塊、建設発生木材)を分別し、再資源化をすることが義務付けられています。また、発注者又は自主施工者は対象建設工事に着手する日の7日前までに大阪府知事(建築主事を置く市町村にあっては当該市町村長)に届出をしなければなりません。
アスベスト廃棄物の処理
解体工事に際しては、アスベスト廃棄物が他の廃棄物に付着・混入することがないよう、分別解体を徹底することが必要です。アスベスト廃棄物が発生した場合は、他の廃棄物と混合するおそれがないように区別して保管し、適正な処理をしなければなりません。
解体工事現場外での産業廃棄物保管
元請業者が産業廃棄物を解体工事現場の外において自ら保管を行う場合には、産業廃棄物処理業の許可は不要です。ただし、廃棄物処理法又は大阪府循環型社会形成推進条例に基づく届出が必要な場合があります。
3.騒音・振動対策
特定建設作業の届出
騒音規制法、振動規制法、大阪府生活環境の保全等に関する条例では、特定建設作業の種類を定めています。特定建設作業を伴う建設工事の元請業者は、市町村への事前届出(作業開始の7日前まで)が義務付けられています。また、特定建設作業は、騒音・振動の大きさや作業時間等の基準が定められています。基準に適合せずに周辺の生活環境を損ねた場合、改善勧告・命令を受けることがあります。
騒音・振動防止の取り組み
- 低騒音・低振動の施工法の選択
- 低騒音型・低振動型建設機械の選択
- 作業時間帯・作業工程の設定
- 建設機械・動力源の配置
- 遮音施設(防音シート・パネル)の設置
- 建設機械の点検・整備
- 作業待ち時のエンジンの停止
- 地域住民への事前説明
4.排ガス基準適合車の使用
自動車の使用にあたっては、自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(自動車NOx・PM法)に基づく車種規制の適合車を使用しましょう。
オフロード車を使用する場合はオフロード法の排ガス基準適合車を使用しましょう。公道を走行しない特殊な構造の作業車(油圧ショベル、ブルドーザー、フォークリフト等)を使用する場合は、基準適合表示等が付されたオフロード車を使用しなければなりません。また、排ガス性能維持のために、定期的な点検整備やメーカー指定の燃料を使用しましょう。
5.水質汚濁の防止
解体工事では、粉じんの飛散防止のための散水や工事車両の洗浄等により、濁水やアルカリ水が発生します。この汚水をそのまま河川等に放流すると、近隣の生活環境に支障が生じる場合があるため、汚水による水質汚濁の防止に積極的に取り組みましょう。
- 汚水の発生を最小限にする工法・作業の選択
- 発生した汚水の性状の把握
- 濃度や量からそのまま河川等に放流すると生活環境に支障が生じる恐れがある場合の沈殿槽や中和設備の設置等の必要な措置
- 汚水の取扱いについての作業員への周知の徹底
6.土壌汚染対策
土壌汚染対策法及び大阪府生活環境の保全等に関する条例では、土壌汚染による人の健康被害を防止するために、土壌汚染の調査や対策について定めています。対象物質は、重金属類、揮発性有機化合物、PCB、農薬などの26種類の有害物質、及びダイオキシン類です。平成29年4月1日から対象物質にクロロエチレンが追加されました。以下の項目に一つでも当てはまる場合は、法及び条例に基づく手続きが必要となる場合があります。
□ 地の形質変更を行う面積が3,000㎡を超えている場合
□ 有害物質を取り扱う工場・事業場等の解体を行う場合
□ 土壌汚染対策法及び条例に基づく区域指定等を受けた土地である場合
7.PCB廃棄物の保管及び処分
変圧器、コンデンサー、蛍光灯安定器等にPCBが含有されている場合、解体業者が引き取って保管、処分することは、法律で禁止されています。PCB廃棄物は建物所有者に引き渡しが必要です。また、絶縁油中のPCB含有が不明の電気機器等については、分析等によりPCB廃棄物でないことが判明するまでは建物所有者が適正に保管する責任があります。キュービクル等の解体撤去時は、電気機器等にPCBが含有されていないか確認しましょう。
低濃度PCB廃棄物は令和9年3月末までの処分が建物所有者に対して義務付けられています。(高濃度PCB廃棄物の処分期間は令和3年3月末で終了しました。万一発見された場合には、至急所管行政へ連絡が必要です)
変圧器、コンデンサー、業務用の照明用安定器等に、PCBが使用・混入している場合、これらは特別管理産業廃棄物のPCB廃棄物として、所有者が適正に保管・処分しなければなりません。
8.フロンの回収
フロン排出抑制法に基づき、解体工事元請業者は、解体する建物内にフロンを使用している業務用のエアコンや冷凍冷蔵機器が存在するかを事前に確認し、その結果を書面で工事発注者に説明する必要があります。また、その書面の写しは3年間の保存義務があります。
業務用のエアコンや冷凍冷蔵機器からフロンを回収できるのは、大阪府知事の登録を受けた第一種フロン類充塡回収業者だけです。解体工事と併せてフロン回収を依頼されている場合は、この充塡回収業者にフロンを引き渡すとともに、工事発注者から交付される委託確認書に必要事項を記載・回付し、その写しと充塡回収業者から交付される引取証明書の写しを3年間保存する必要があります。十分な確認を行わずに解体作業に着手し、残存しているフロンを大気中に放出させることのないよう注意しなければなりません。なお、家庭用のエアコンや冷蔵庫は家電リサイクル法に基づいて適正に回収しましょう。
廃棄物・リサイクル業者に廃棄機器を引渡すときは、廃棄機器とともに引取証明書の写しを交付する必要があります。
まとめ
建築物などの解体工事や解体に伴う廃棄物処理には、さまざまな法律や条例に基づく規制があります。必要な届出や規制を理解し、遵守して、適正な解体工事を実施しましょう。