この記事では、水銀排出施設に関連する法改正と、それに伴う手続き、義務、管理方法などについての基本的な情報を提供します。特に、大気汚染防止法とその施行規則の変更内容や、届出の詳細な手続き、記録の保存と提出方法、事業者の役割について説明します。
水銀排出施設における法律改正の概要
従来の大気汚染防止の目的は、「大気の汚染に関し、国民の健康を保護するとともに生活環境を保全する」ことでしたが、環境中を循環する水銀の総量を地球規模で削減するという水俣条約の趣旨に沿って、水銀等の大気排出量をできる限り抑制することを目的として、「水銀に関する水俣条約の的確かつ円滑な実施を確保するため工場及び事業場における事業活動に伴う水銀等の排出を規制」することが追加されました。
大気汚染防止法等の改正(水銀大気排出規制)
水銀に関する水俣条約の採択を受け、改正された大気汚染防止法等が平成30年4月1日より施行され、水銀等の排出等規制がはじまりました。水銀排出施設を設置等しようとする場合、事前に届出をしなければなりません。
・水銀排出施設設置の届出
水銀排出施設の設置・構造等を変更しようとする場合、事前の届出をしなければなりません。改正法施行時点で既に施設を設置している場合は、施行日(平成30年4月1日)から30日以内の届出が必要です。
・排出基準の遵守義務
水銀排出施設から水銀等を大気中に排出する水銀排出者は、その水銀排出施設に係る排出基準を遵守しなければなりません。
・水銀濃度の測定及び測定結果の保存義務
水銀排出者は、水銀排出施設に係る水銀濃度を測定し、その結果を記録、保存しなければなりません。
・要排出抑制施設の設置者の自主的取組等
要排出抑制施設の設置者は、排出抑制のための自主的取組として、単独又は共同で、自ら遵守すべき基準の作成、水銀濃度の測定・記録・保存等を行うとともに、その実施状況及び評価を公表しなければなりません。

手続きの流れ
設置届及び変更届は工事着手予定日の61日前までに届出書を提出してください。
なお、大阪市では、届出書の作成や提出、届出の受理、工事着手、設置後の施設の管理などが円滑に行われるよう届出書提出前の事前相談を実施しています。
既存施設に対する経過措置について
既存施設とは、施行日において現に設置されている水銀排出施設とします。既存施設の排出基準については、施設の大幅な改修が必要な場合等技術的な制約もあり得ることから、既存施設の種類ごとに講じられている水銀等の除去の対策を踏まえ、新規施設とは別に既存施設としての排出基準を設けています。この基準については、施設の基本構造の変更により、施設規模が5割以上増加する改修を実質的な改修とし、当該改修を行った施設には既存施設の経過措置は適用されず、新規施設の排出基準が適用されます。また、既存施設において、規制基準に適合しない施設を当該施設に適合されるための大幅な改修が行われる場合は、排出基準の遵守について改正法施行後最大2年間の猶予が設けられています。
大阪府生活環境の保全等に関する条例の改正について
水銀排出施設のうち、府条例に基づく有害物質(水銀)の排出規制対象施設については、平成30年4月以降は府条例の規制対象外となります。なお、改正法の経過措置により排出基準の適用が猶予される場合には、その期間は府条例の排出基準が適用されます。
測定法と測定義務について
水銀排出施設から水銀等を大気中に排出する者は、排出ガス中の水銀濃度を測定し、 その結果を記録し、これを保存しなければなりません(法第18条の35)。 また、測定の結果は、様式第7の2による水銀濃度測定記録表により記録し、その結果を3年間保存する必要があります。ただし、交付を受けた計量法第 110 条の2の証明書は、記録として取り扱うことができます。
大気汚染防止法
https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC0000000097#Mp-Ch_2_4-At_18_35
(水銀濃度の測定)
第十八条の三十五 水銀排出者は、環境省令で定めるところにより、
当該水銀排出施設に係る水銀濃度を測定し、その結果を記録し、これを保存しなければならない。
大気汚染に係る有害物質の測定方法について 大気汚染に係る有害物質の測定方法の詳細については、下記に掲載されています。
大阪府/条例に基づく排出ガス中の有害物質の測定方法
https://www.pref.osaka.lg.jp/o120080/jigyoshoshido/taiki/yuugaisokutei.html
・測定法
ガス状水銀と粒子状水銀を合わせた全水銀を測定対象とし、全水銀の濃度により排 出基準への適合を判断します。
・測定頻度
水銀排出施設 | 測定の頻度 |
排出ガス量が4万㎥/時以上 の施設 (③、④を除く) | 4ヶ月を超えない作業期間ごとに 1回以上 |
排出ガス量が4万㎥/時未満 の施設 (③、④を除く) | 6ヶ月を超えない作業期間ごとに 1回以上 |
専ら銅、鉛又は亜鉛の硫化鉱を原料 とする乾燥炉 | 年1回以上 |
専ら廃鉛蓄電池又は廃はんだを原料 とする溶解炉 | 年1回以上 |
※ 排出基準を上回る濃度が検出された場合 水銀排出施設の稼働条件を一定に保ったうえで、速やかに3回以上の再測定(試料採取を含む)を実施し、初回の測定結果を含めた計4回以上の測定結果のうち、 最大値及び最小値を除く全ての測定結果の平均値により評価します。 ただし、初回の測定結果が排出基準の値の1.5倍を超過していた場合は、初回測定結果が得られた後から30日以内に、それ以外の場合は60日以内に実施し結果を得ること。 なお、排出基準の適用が猶予される場合、その期間内においては定期測定で排出基準を上回ったとしても再測定を行う必要はありません。
粒子状水銀濃度の測定の省略
事業者の負担を軽減する観点から、一定の条件を満たせば、ガス状水銀の濃度をもって全水銀の濃度とみなす(粒子状水銀濃度の測定を省略する)ことができます。 この場合であっても、3年に1度は粒子状水銀の測定する必要があります。
その他Q&A
Q.一定の要件を3年間満たせば粒子状水銀の測定濃度を省略することができるとの規定があるが、改正法の施行前の測定結果も含めてよいか。
A.改正法施行後3年間、規定の要件を満たしている必要があり、施行前の測定結果は対象となりません。
Q.粒子状水銀の省略要件の3年間の考え方について、年度途中に測定を開始した場合、3年間はどのように考えるのか。
A.法施行後、要件を満たすことが確認できた測定日から連続する3年の間、継続して要件を満たしたことが確認できた場合、その後の測定から省略が可能です。
Q.排出ガス量が4万㎥/時以上か未満かで排出ガス中の水銀濃度の測定頻度が異なるが、排出ガス量は乾き・湿りどちらで判断すれば良いか。
A.湿りガス量で判断してください。
まとめ
水俣条約の目的である地球規模での水銀削減を目指し、大気中への水銀排出をできるだけ抑えるため、大気汚染防止法に「水銀に関する水俣条約の的確かつ円滑な実施を図るため、工場や事業場の事業活動による水銀等の排出を規制する」という内容が追加されました。水銀を排出する施設を設置する場合には、事前に届出が必要です。